🍸バープリモ劇場『将来が“見えてまう”恐怖』

🍸バープリモ劇場
『将来が“見えてまう”恐怖』

土曜の夜。しとしと降る雨の中、ビルの階段をのぼってきたのはユカリ（34歳・会社員）。

最近は“スピリチュアル迷子”を名乗りながら、なぜか水晶玉を手に持っている。ビニール傘ごしに、その球体がやけに神々しく光って見えた。

（扉を開けるなり）

●ユカリ（ドヤ顔）
「マスター、わたし今日、未来が見えてもうた！」

○マスター（グラスを拭きながら）
「また変なセミナー行ってきたんか？」

●ユカリ
「ちゃうって。ファミレスでカレー食べてたら降りてきてん。“3年後もカレー食べてる！”って。」

○マスター
「……それ、ただの“カレー好き”や。」

──そこへ、常連のカズオ（45歳・離婚歴3回）がゆっくり入ってくる。

●カズオ（ぼそっと）
「未来ってな……見えたからって、ええもんばっかりちゃうんやで。」

「最初の結婚のときも思ったんや。“この人とずっと一緒にいる未来が見える”って。

でも実際は、黙ってスマホいじってるだけの未来やった。隣にいても、心ここにあらず。」

●ユカリ
「それ、“共に歩む”ってより、“共に既読スルー”やな。」

○マスター（苦笑）
「将来が見えるって、希望より“あきらめ”が先に来ること、あるよな。」

──そこへナナ（36歳・OL）が、仕事帰りにふらっと登場。濡れた肩を軽くタオルでぬぐいながら、椅子に沈みこむ。

●ナナ（ぽつり）
「“未来が見えない”のも不安やけど……いちばん怖いのって、“見えすぎる未来”やと思う。」

「起きる時間も、することも、食べるもんも、同じ毎日がずーっと続くんかなって思うと……なんか、心が乾くねん。」

○ユカリ
「ナナちゃん、いよいよスピ系デビューやな。」

○マスター
「でも、それ正直わかるわ。将来がカッチリ決まってるって、安心やなくて、“逃げ道がない”感覚かもしれんな。」

●カズオ
「俺なんて、老後に通販で腹筋マシン買って、使わんまま積んでる未来が見えとるで。スムージーミキサーも、未開封のまま横にあるやつな。」

○ユカリ（ぷっと吹き出す）
「未来という名の“物置部屋”やん。」

──そんな笑いのあと、マスターが3人の前にカクテルを静かに並べる。

○マスター
「せやからこそ、“何も決まってない”今のほうが、ほんまは強いんかもな。」

「今日は“予測不能モヒート”な。ミントの量、毎回ちゃうで。」

●ナナ（グラスを手にとり）
「未来も、それくらいブレてるほうがええかもしれん。」

●カズオ（ひと口）
「うん……ミント多すぎやけどな。」

○ユカリ（笑いながら）
「でもさ、こうやって笑って話せてる今があるなら──“未来なんかまだ決めんでええやん”って思えてきたわ。」

──グラスが静かに重なる音。夜は更けていく。

📻 ナレーション《夜のあとがき》

“未来が見えない”のは、こわい。でも、“見えすぎる未来”には、息が詰まる。

安心より、閉塞感。希望より、あきらめ。それが先にやってくることもある。

でもね──真っ白な未来には、まだ描ける余白がある。

ちょっとだけでも笑えた夜があったなら、その笑い声が、未来への「しるし」になるかもしれん。

バープリモは、「これからどうしよう」っていう夜に、“ま、なんとかなるかも”って笑える灯りをともしてくれるそんな場所です。😁